ロスト・クロニクル~後編~


「だ、大神官様」

「大丈夫ですか?」

 額に汗を滲ませ肩で呼吸をしているオルデランの姿に、親衛隊の面々は動揺を隠せない。次々に発せられる心配が籠められた言葉にオルデランは頭を振ると、自分のことはどうでもいい。それ以上に、聖域に立ち入ろうとしているミシェルを止めて欲しいと頼むのだった。

 一応、複数の神官が先に行ってミシェルを止めようとしているが、神官だけで手に負える相手ではない。それは知力や体力の面で言っているわけではなく、権力を前面に出す性格が厄介といっていい。だから聖域への立ち入りを許可するので、何とかしてほしいという。

 オルデランの頼みに親衛隊の面々は力強く頷くと、勇気を出し聖域へ足を踏み入れる。しかし彼等にとってはじめての場所で、本来自分達が勝手に立ち入っていい場所ではない。また、聖域全体に漂う神聖な空気に圧倒されてしまい、背中に冷たいモノが流れ落ちてくる。

 本当に、この場所に――

 信じられない。

 立ち入った者の感想は共通し、強い不安感が付き纏う。それでもミシェルを止めてほしいというオルデランの頼みがあるので、彼等は聖域を突き進みミシェルの姿を捜す。その時、複数の声音が響き渡り、それに反論するかたちでミシェルの罵倒する声音が響くのだった。

 言い争いを頼りにその場へ向かうと、複数の神官に取り押さえられているミシェルの姿を目撃する。何が何でもミシェルに、エクセリオンを触れさせるわけにはいかない。その気持ちが神官を突き動かしているのだろう、神官の誰もが物凄い形相を浮かべながらしがみ付いている。

 いけません。

 止めて下さい。

 女神が怒ります。

 どうか、何とぞ――

 次々に発せられる言葉に対し、ミシェルの自分勝手な言葉が続く。余程鬱陶しく思っているのだろう、拳で神官達を殴り続ける。それでも離すわけにはいかないのでミシェルの攻撃に耐えながら、彼を捕獲し続ける。しかしそれも限界が近いらしく、苦痛に呻く者もいた。

 親衛隊の面々はミシェルの側に行くと、神官達に代わって取り押さえようとするが、ミシェルが発した言葉に身体が硬直してしまう。「自分は、エルバード公国の公子だ」だから親衛隊ごときにあれこれと言われたくなく、また下の者が命令するなと言い放つのだった。