両者の戦いは互角で、体力の限界を迎えたわけではない。なら、ルークが一瞬の隙を作ったというところか。シードは冷静さを保っているが、目付きが鋭い。どうやら、今回の結末が気に入らないようだ。
悪態を付くと、自分が惨めになってしまう。それを知っているので無言を貫き、ルークに軽く頭を垂らす。ルークもシードに向かい頭を垂れると、剣を鞘に納め主人であるミシェルのもとへ向かう。
刹那、黒い物体がルークに投げ付けられた。黒い物体の正体は小石で、投げ付けたのはミシェルだった。
「馬鹿者」
「……申し訳ありません」
ルークはミシェルの前に跪くと、自分の不甲斐なさを詫びる。小石が当たった箇所は、額の右上。ルークが頭を垂れると同時に、額から頬に向かって血の筋が伸び、額に激痛が走る。
だが、主人の前で弱音を吐くことができないので、表情を崩すことなくミシェルの罵倒を聞き続けた。
「何で負けた」
「相手が、一枚上手でした」
「そんなの言い訳だね。ぶっ殺せって言ったじゃないか。お前は、ただ命令に従えばいいんだ」
爆発させた感情が向けられたのは、目の前で跪いているルーク。ミシェルはルークを脚蹴りすると、何とも踏み付ける。ルークが命令に背いたからといって、暴力を振るっていい理由にはならない。慌ててミシェルの後方で待機していた男が主人を制するが、聞き入れてはくれない。
感情が納まるまで、永遠に続く。その結果、ルークの服は土埃で汚れ、新しい傷を生み出す。
「次は、許さないよ」
「……御意」
「まったく……面白くない」
自分が望んだ結末にならなかったことに、ブツブツと文句を言い続ける。しかしルークに当たったことが多少のストレス発散となったのか、フンっと鼻を鳴らすとその場から立ち去る。主人の姿が視界から消えたことを確認すると、ルークは顔を上げやれやれと溜息を漏らす。
と同時に汚れてしまった服を丁寧に叩いていると、シードと視線が合う。彼の視線にルークはフッと笑うと「困った主人」と言っているのか、肩を竦めていた。その後、何事もなかったかのようにルークもミシェルの後を追うように歩き出す。彼が歩いた場所――血が点々と続く。


