ロスト・クロニクル~後編~


 互いの剣がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り響く。シードが「負け」を前提に戦っているが、最初から「負け」を前提で戦っている素振りを見せない。最初は一定の力で戦った後、徐々に力を抜いていくのか。

 しかし、未熟なエイルがそれを考えたところでシードの心理を掴むことは難しい。それにシードの本気で戦っている姿を一度も見たことがないので、今のレベルを計ることはできない。

 ただ、唯一判明していた。

 足下にも及ばない。

 それを改めて認識させられる。

 確かにメルダースで魔法を学んでいるのでその点では負けないだろうが、それは言い訳になってしまう。現に副隊長のリデルも魔法を得意としていながら、剣を基礎から学び腕を高めた。

 エイルも見習い、腕前を高めていかないといけない。フレイという最高の師のもとで――

 ふと、父親の話を思い出す。以前、剣を使う者の体格の点に付いて説明をしていた。アルフレッドのように大柄で筋肉隆々の体型の持ち主は、その筋肉を最大限に利用し剣を使用する。

 剣で斬るというより、叩き付けると表現した方がいいか。現にアルフレッドは親衛隊の試験の時、己の筋肉を利用していた。エイルとアルフレッドの体型は違うので、勿論その戦い方は無理だ。

 だからといって、筋肉をつけなくていいというわけではない。剣を振るには、それ相応の筋肉が必要になる。シードやルークはアルフレッドのように筋肉隆々の体型ではないが、筋肉は相当なものだろう。

 果たして、自分は。

 エイルの体型は華奢ではなく、中肉中背。といって、誇れるほど筋肉が付いているわけではない。

 長い学生生活と、一定の順位を保つ為に本の虫状態だった。どちらかといえば、不健康万歳の生活。唯一の運動といえば時折行なっていたラルフの仕置きと、夏休み中に手伝っていた掃除くらいだろう。

 それだけでは、筋肉が付くわけではない。一応毎日身体を鍛えているが、褒められた体型ではない。こうなると、剣の腕前以前の問題になってしまう。厳しい現実であったが、エイルが挫けることはない。

 多くを学び、様々な経験を重ね知識とする。父親やシードの腕前に届くかどうかわからないが、目標は高い方がいい。エイルはアルフレッドと違い、別の意味で身体が小刻みに震えてくる。それだけシードとルークの戦いは熱いものがあり、ミシェル以外は息を呑んだ。