国を背負っていなければ、正々堂々と戦い勝敗を決めることができた。互いに好敵手と認識している同士、素晴らしい戦いを繰り広げただろう。残念ながら、今それを求めるのは難しい。
「負け」を前提に戦う試合。これほどつまらなくて惨めなものはなく、唯一楽しんでいるのはミシェルのみ。
歯痒い。
唯一真実を知っているエイルは、顔を顰めた。しかしシードの命令があるので、言葉を封じ真実を隠す。両者が使用しているのは、練習用の剣ではなく実戦用の剣。一歩間違えれば、相手の命を奪う。
このような場合、実戦用の剣を用いず練習用の剣を用いるものだが、これもミシェルの働きか。実戦用の剣を使用して戦っている二人の姿に、ミシェルの我儘にエイルは腹を立てる。
(こんな奴に……)
顰めていた表情が、今度は徐々に歪んでいく。許されるのならこの場で、強力な魔法を叩き込んでいた。
だが、これを行なったら国際問題に発展する。青二才の馬鹿公子であっても、その命は重い。
「よっ!」
エイルの変化を感じ取ったのはアルフレッド。彼はエイルの肩に手を乗せると、友人を勇めた。
「平気か?」
「……うん」
「そうか」
それ以上、アルフレッドはエイルに言葉を掛けることはしない。ただ、目の前の光景を見詰める。
世界を回り、剣の修行を行なっていたアルフレッド。彼等の戦い方に違和感を覚えたのか、身体が小刻みに震えている。だが、邪魔してはいけないと理解しているので沈黙を保つ。
ああ、怒っている――
アルフレッドの感情を知った時、エイルは自身が冷静でいなければいけないと悟る。彼が感情のままに突っ走ったら、シン一人で彼を取り押さえるのは難しいので、手伝わないといけない。
それを考えていると、先程までの感情が落ち着いてくる。他人の振り見て――とは、よく言ったものだ。エイルは再びシードとルークの戦いに視線を向けると、彼等の戦い方を学習する。実戦経験が乏しいエイル。シードが言った通り見学は、いい勉強の材料となった。


