電車に乗ったのは、通勤ラッシュとはいえない微妙な時間帯で、少ししか人がいなかった。

それに、私が振った気まずさも合わさり、私と桜木の間には何ともいえない空気が漂っていた。


この状況はさすがに嫌だな、と思っていると、いつの間にか私達の町の最寄り駅。

無言で電車を降り、階段を下り、改札口も出てしまった。


桜木は歩きで、私はバスで帰るから、今日はここでお別れ。

桜木は、もうこっちを見そうにないから、私も諦めて桜木に背を向けた。


明日は晴れだろうから、高山祭もあるのに。

実行委員として、クラスの仲間として、“一緒に頑張ろうね”って言いたかったのに。

こんな気まずいまま、別れるのは嫌だ。
と思いつつ、やっぱり私は何も出来ない。


被害者は私じゃないのに、こんなことを考えて落ち込んでいる自分に、さらに嫌気がさす。


でも、そんな私の気分を変えてくれたのは、肩を優しく叩いてきた手。

自分が悲しいときも辛いときも、人のことを一番に考える、大きくて温かい桜木の手だった。