「悠?」

「ん?なに?」

「駅着いたよ?」

「あ、じゃ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

いつも柔らかい笑顔を見せる母親はあたたかい人だなと思った。
私はかなり恵まれた場所で優しくて時には厳しい両親の元へ生まれたんだと感じる。

「ゆーう」

「お、春」

「今日も寒いね~!」

「そうだね~、雪また積もりそうだよね」

「ね~!ほんと勘弁してほしい!」

いつも明るくて可愛くて怒ると凶暴化する春は長い髪を軽く手グシでとかしている。
私は春の話を頷いて聞いていることが多い。
春は話上手で聞いていて楽しい。
皆勤賞を約束したのも春。
何故か春とは高1からずっと一緒にいるのに喧嘩をしたことがない。

「ほんとすごいよね」

「何が?」

「だってまだ喧嘩してないじゃん?」

「喧嘩したい?」

「いや、ぜんっぜん」

「互いに怒ると怖いって分かってるからしないんじゃない?」

「だべな」

「そうだよ~!」
ふと思ったことが口から出た言葉でも、
いつもの答えをふふっと笑いながら当たり前に返してくれる春に私は嬉しくなる。
この会話もあと何回できるんだろう。