「ただいまー。おかーさん、おなかすいたよー」

 その声は深雪である。そして居間に飛び込むように入ってきた。

「お母さん、今日のご飯、何?」

 母さんは支度をしながら答える。

「今日は冷やし中華よ」

「やったー」

 深雪は喜んだ。今日ここで何が起こったことも知らずに。

 僕は深雪のそのうれしそうな顔を見てうらやましく思った。何も知らないほうがいい時もある。僕はそう感じたのであった。