もと来た道を戻り、風が強い利根川にかかる橋まで来た。

 雄治は風に押されながらも、一歩一歩進んだ。風は嘲り笑うように雄治に向かって吹きぬける。心はさらにブルーになった。

 先程のことで、少し不幸の事故の話がどうしても頭から離れない。あの時、聞きたいと言ったのが間違いだったのだろうか。

 そしていきなり突風が吹くと、橋の上にある一枚の落ち葉を連れ去った。

 その時であった。どこからともなく、小さな泣き声が聞こえた。雄治は橋の上から辺りを見回した。が、何もなかった。

 ついに疲れがピークかなと思った。そして雄治はさらに歩く。

 少し歩くと、再び泣き声が風に乗って、耳元まで来た。また同じように辺りを見たが、何もなかった。今度は耳を澄ませて声が聞こえるのを待った。耳の中に冷たい風が流れ込む。その中には、確かに子供の泣き声があった。そしてその声は、橋の下から聞こえるのが分かった。

 雄治は急いで橋を渡り、土手を降りた。川付近の風は、上と比べ物にならないほど冷たかった。辺りを見回してみると、柱付近に一つのダンボールがあった。

 雄治はダンボールの近くまで歩み寄り、ダンボールの中を覗いた。

 雄治は唖然とした。

 そこには顔を真っ赤にしている小さな乳児が、大きな声で泣いていた。

 雄治はどうしようもないような顔をして、辺りを見回した。そしてまた段ボール箱の中の乳児を見る。するとさっきは気付かなかったが、乳児の横には手紙が置いてあった。

 そこにはこんなことが書かれていた。


 深雪をお願いします。           松林 清治・望


「はぁ?」

 思わず声を出した。そしてわなわなと怒りが込みあがってきた。

 手紙をたたんでポケットにしまった。腰を下ろし、乳児を抱く。すると乳児が少し微笑んだように見えた。何だろう、この気持ち。今まで味わったことのない、いや、遠い昔に一度だけ味わったことがある、あのときの気持ち。何だか懐かしい。

 遠い過去に浸りながら、その味わいを楽しんでいるとき、後方でガサッと音がした。雄治が振り向くと、ススキが揺られていた。