「じゃあね、雄治くん」

 帰りの一本道まで来ると、葵は悲しそうに言う。

「じゃあね、今日は色々とありがとう」

「えっ、いいよ、そんなの。私は私なりにやったんだから」

「そうだよな、これはお前の仕事だもんな」

「そうだよ。私だってここで社会的に貢献しているんだから」

「ははは」

 雄治が笑った時、葵は微笑む。そして雄治は一度天を仰ぎ、葵に向き直った。

「じゃあ、改めて、またな」

 その言葉を言ったとき、葵はまた同じ表情を見せた。

「うん…じゃあね、雄治…また…」

「ん?」

「何でもないよ、じゃあね」

 葵の頬は、空に染められていた。何故だか知らないが、葵の心には雄治に対する不思議な親近感が生まれていた。

 細い道を歩き、時々後ろを振り返ると、葵が元気よく手を振る。その姿を見るなり、雄治はすぐに前を向く。前を向くき、冷たい風が頬に当たると、風は砕けた。そして風の勢いは、段々と増してきた。

 まるで風は、雄治を帰らせないようであった。