いきなり雄治は思い立ったように辺りを見回した。電話したほうがいいかな。そう思ったのだ。

 雄治は近くにある公衆電話を見つけ、中へ駆け込んだ。

 しかし駆け込んだまではよかったが、電話番号が分からない。あたふたとしているとき、ふと地図の裏を見た。そこには赤い字で電話番号が書かれてあった。そして電話番号を不器用な手つきで次々と押されていった。

 電話のコールが長々と鳴り響いた。

「もしもし」


 電話の向こうから快活な女性の声が聞こえる。雄治はすぐさま返事をした。

「もしもし、私は古葉というものですが、そちらは孤児院の職…」

「ああ、話は聞いていますよ。あなたも色々と大変ですね」

「はぁ」

 少し沈んできた。医師のイメージが段々崩れてきた。

「別に今日でなくても、後日でも構いませんでしたのに」

「いや、一度顔を合わせたほうがいいかなーなんて…はははは」

「あっ、そうでしたの。でも宮内さんから電話がきましたから。知っていましたか?」

「いえ、知りませんでした」

 知らないことが二つ重なった。古葉は続ける。

「それでも構いません。今からそちらに行っても構いませんか?」

「ええ、構いませんが…」

「あっ、じゃあ宜しくお願いします」

「ああ、はい分かりました」

「ところで、お名前は?」

「あっ、すいません、申し遅れました、私、庄野と申します」

 庄野…昔、どこかで聞いたことがある名前だ。雄治の脳裏には、昔懐かしい画像がよぎった。

「庄野さんですか、分かりました。ありがとうございます。また後ほど」

「では、後ほど」

 そして電話を切った。少し強情過ぎたかな、と古葉は反省した。少々後悔しながらも、雄治は早速病院から孤児院への道順を調べた。その場所は国道沿いのコンビニの近くであった。

 雄治の住んでいるアパートの全く逆に位置していて、少し不安になった。しかしその反面、雄治にとってはこの町の反対に行くことはなかったので、今まで見たことのない風景がどんな風景なのかを楽しみにしていた。

 そしてどこまでも続きそうな道を、大きく一歩を踏み出した。