医師はまじめな顔で雄治を見つめた。そして雄治は続けた。

「このまま私達の思い出っていうか、子供のことについて、心の中に閉じ込めたままの方がいいのではないでしょうか」

 そう言うと雄治は暗い顔をしたが、医師は優しく微笑みかけた。

「古葉さん、あなたが決めたことでしょう。ここまできたら、人に相談するのではなく、自分で決めなさい。その判断が正しかったかは未来に聞きなさい」

 医師は振り返った。そのとき医師が着ていた白衣が非常に輝いているように見えた。そして医師はもと来た廊下を歩き、一番奥の部屋に入っていった。

 雄治は決心したように顔を上げて、外の方を見た。外は太陽の光で、葉がダイヤモンドが輝いているように見えた。葉に滴る水さえも透けてるような感じであった。

 雄治はゆっくり立つと、地図はポケットにしまい、封筒を片手に玄関の方に向かって、ゆっくり歩いた。その際、足を引きずって歩いたため、スリッパと床に摩擦が起こって、シュッ、シュッと音を立てた。

 スリッパから靴に履き替え、雄治は勢いよく病院から出た。