突然のことに、私は戸惑った。ごめんと言われる筋合いや覚えはまったくない。

 私はそのおばさんを突き放し、少し後退した。

 するとおばさんは戸惑った顔をすると、すぐにもとの優しい微笑を作った。

「深雪…信じられないだろうけど…私達、あなたの…あなたを…産んだのよ」

 その言葉を聞いた時、私は目の前の人間を認めなかった。テーブルの近くに立っている男、私の目の前で泣きながら微笑んでいる女、どちらも認めなかった。

 こんなの、私の親じゃない。私の親は二人だけ。だから二人は私の親じゃない。

 私は首を振りながら、へばりつくように壁に寄りかかった。

「嫌…そんなはずない…私の母さんは…母さんは…死んだんだから。そんなこと、知らないくせに」

 おじさんとおばさんは困惑した顔をした。

 私はそんなことを気にせずに、今の気持ちをそのまま言った。

「もし私の親だったら…示してよ。なんかあるでしょ、証明するもの。出してよ」

 私はいつの間にか混乱していた。ここで言っている言葉の意味、まして何を言っているのかさえも分からなかった。

 そんな私を見て、おばさんは決して私を惨めそうな目で見なかった。代わりに、その目は私を温かく見守っているように見えた。

「ちょうど右肩の後ろにある、二つのほくろ、歯が二本少ない、へその横にある小さな傷、それに…利根川の川岸で拾われた」

 私はいつの間にか駆け出していた。居間に二人残して、そのまま出て行った。階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込む。そしてタンスを力ある限り押し、ドアの前まで運んだ。

「深雪…」

 下から切ない足音が聞こえた。そしてドアに手がかかる音がした。

「帰ってよ…ここは…私の家よ…出てってよ…」

「深雪…」

 ドアノブから手が離れる音は、むなしく廊下を響かせた。

 そして足音は次第になくなっていった。

 私は泣きじゃくった。ベッドの上で丸くなり、自分のことを責めた。確かに彼らは、私の本当の親らしい。しかし、私を捨てたという事実は、私自身は彼らを受け付けなかった。なぜ私を捨てたのだろうか。子供が生まれてうれしかったはずなのに、なぜ捨てたのだろうか。捨てる理由など、どこにもない。