芳江が死んでから、ちょうど一年が経つ。ふと空を見上げると、空はぽっかりと穴が空いたように、そこだけが青かった。

 わずか三十七年の小さな命は、去年、天に散った。

 この空の下には、どれだけ悲しんでいる人がいるのであろうか。そのことを知らずに、この空の下で、どれだけ歓喜に沸いているのであろうか。大切な人を無くした日の翌朝を知っている人は、この空の下にどれだけいるのであろうか。多分、半分にも満たない。泣きたくて、ベッドにずっと寝たくて、布団の中でうずくまりたくて、そのまま息を止めたくて、無性に気持ちが駆り立てられて…。あの人と最後に…いや、ずっと話したくて、ずっと抱き合いたくて、ずっと息を通い合わせたくて…。

 芳江の一周忌が終わり、仏壇の前で手を合わせると、そこで初めて芳江と心が通わせることができるような気がする。

 そろそろかな。芳江と話し終えると、勢いよく立ち上がった。


 明るい空の下。俺は自転車にまたいで走っていく。深雪と並列して、家に向かう。

 今日は二人で水族館に行き、楽しい一日を送った。しかしこれは彼氏彼女という関係で、もう兄妹のような関係にはあれっきり戻っていない。父さんもその関係を知っているし、理解している。そんな保護下で俺達は暮らしている。

「ただいま」

 俺と深雪は居間に入る。

「お帰りなさい…深雪」


「要、ちょっと出かけるぞ」

 父さんは要を手招きすると、玄関へ出て行った。その後を要が追いかけると、家に残ったのはドアが閉まる音だけだった。

「お帰りなさい…深雪」

 その声は母さんの声に似ていた。温かく、よく透きとおって耳まで伝わり、まるで空気に染み込んでいるようであった。

 私は声のする方を振り向いた。

 するとそこには、見たこともないおばさんとおじさんがイスに座ってこちらを見ていた。二人とも優しく微笑んでいるかと思うと、突然顔をしわくちゃにして泣き出した。

 そしてイスから立ち上がり、私のもとに歩み寄ると、おばさんは私を抱いた。

「ごめんね…ごめんね…」