「ため息ついてどうした?なにかあった?」
《ドアが閉まります。》
「ううん、なんでもない。」
私がそう答えると、林くんが近づいてきた。
「ちょ、林くん!?」
男の人に慣れていない私。
でも、そんな私に構わず近づいて耳元まで林くんの顔がきた。
え?なに?え!?
「彼氏いたことないってことはキスしたこともないの?」
バサッ
持っていた鞄が私の手をすりぬけて落ちた。
「大丈夫?はい!」
いたずらが成功した子供のような笑顔の林くん。
私の鞄を拾い渡しながらこう言った。
「ないんだね。かわいい。俺とキスしてみる?」
え!?
な、なにを言い出すんだろう、この人は。
「林くん!?」
「百合さん…」
林くんの顔が近づいてくる。
え、本気なの!?
どうしよう!?
パニックになりながらも、私は目をつむってしまった。
「…なーんてね。」
《1階でございます。》
エレベーターのドアが開く。
「ほら、行くよ。」
林くんは何もなかったかのようにスタスタと歩いていく。
からかわれた…?
何もなくてよかったけど…なんだろうこの気持ち。
ホッとしないのはなんで?
残念だなって思ってしまったのはなんで?
ドキドキしてるのはなんで?


