「というか…まだ青あざ治んないんだけど?」

髭を剃るために鏡の前にたつと、未だに目の横に残る青あざが目についた。

「…自業自得じゃない、今度は間違ってもあんなことしないでよね!」


「くっ…俺だって間違えたくなかったわっ…何でお前みたいな女を好き好んで…」


しゅるっと後ろからネクタイが首に巻きつき、真綿をしめるかのようにギリギリと絞まってきた。

「何かいった?」

「え゛?何も?何かいってた?」



まったく!といい背後から去っていったと同じに首への圧迫の恐怖がさっていった。



こ、怖かった…


朝から少し怯えながら出勤するはめになってしまった。




でも、あれから確かに変なのだ。


目を開けていれば平気なのだが、
目を閉じると恋人がいるかのような錯覚がするのだ。
しかもちゃんと顔まではっきり分かるくらいに。
そして近くにいると抱きしめてしまいたくてしょーがない。


「…もーそろそろ地元に帰ろうかな…なーんて」


まぁそんな都合よく帰れるはず…









「んじゃ、あしたからよろしく!」


「…あ、はい!!」












「地元に移動になったーーー!!」

ばーん!と扉を開けると
カレーを作っていた真夏がびっくり、しすぎて目をみひらいたままこっちをみていた。


「えぇ? 」


「いやー俺もびっくりだよ!わはははー」


玄関からぴょーんと飛びながら台所を通り過ぎる。

「…そうとう浮かれてるわね…ところでいつなの?転勤の日は?」


「んーー、来週、あ、ちょうど来週だ。」

シュルシュルとネクタイを外し着替えながらカレンダーをみた。


「来週って…」

カレンダーを見に来た真夏はその日をみると黙ってしまった。

そして下を向いたまま何か呟いた。

「え?何か言ったか?」


「…その日は、やめたほうがいいわ。お願い、違う日に出来ない??」

「はぁ??無理に決まってんじゃん。」

無茶苦茶いう真夏に呆れながら当然の返答をする。

「まっ、というわけでお前も早く次の隠れ家みっけろよー。さすがに連れてけねーからな」


着替えを済ませていそいそと冷蔵庫でベストな状態に冷えているビールを取り出してプシッと缶をあける。


「んまーっ」

帰れることへの喜びで上機嫌なのでビールが格段に美味しく感じる。
にまにまとテレビの前までいきリラックスする。


「…わかってるわよ」