【再会】
街灯に照らされて、こちらに近づいてくるのは、やはり蝦名さんだった。
ゆっくりと1歩ずつ、確実に歩みを進める姿からは、ある種の決意を感じさせられた。
俺は、正直ほっとしたんだ。もし、来てくれなかったらどうしよう。本当に蝦名さんを、結依を救えるんだろうか。突然、押し掛けて結依が成仏できてない!って騒ぐし、得たいの知れない、キモイ奴だって思われてるかもしれない。
色々な不安が頭の中を駆け巡っていたんだ。
でも、蝦名さんの姿を見て、浮き足だった自分から、いつもの自分に戻れたんだ。
蝦名さんが近づいてくるにつれ、おっさん幽霊達が、ざわざわしだした。
「おい。来たぞ!あれが結依ちゃんの彼氏か……。おっ!結構なイケメンだな……こりゃ、ダメだぁ。アンちゃん、完全に負けてるわぁ。顔が」
俺に対する野次も混ざっていたが、後で必ず殺す。必ずだ…と自分に言い聞かせ、グッと堪えて、結依に声をかける。
「蝦名さん、来てくれたよ。良かったな」
「うん…うん…ありがとう……」
結依は、両手を口に添えて、涙を流していた。
俺は、ポンポンッと結依の頭を軽く叩いて、ニコッと笑った。
「待ってろ。今、喋らせてやるからな」
こちらに、ゆっくり向かってくる蝦名さんに、右手を挙げ、合図を出し、駆け寄った。
「こんばんは。来てくれたんですね」
「……あぁ。君の言うことを、全て信じたわけではないんだが、この前、君と話をしていた時に、不思議と結依の匂いがしたような気がして……ね…」
「匂い……?ですか?」
「あぁ。まぁ、君から結依の存在の様な物を感じた気がしたんだ。それで、それを確かめに……って、こんなことを本気にして、真夜中の公園にいる俺は、どうかしちゃったのかなぁ」
そう言うと、蝦名さんは苦笑いをした。
「蝦名さん。それ正解です。蝦名さんも、うっすらだけど霊感あるんですよ」
「いやぁ、それは遠慮願うよ。幽霊を見るとしたら、今日だけで良い。今日だけでね…」
「そうですよね。任せて下さい」
良かった。どうやら国家権力への通報は免れたらしい。
それに、今日の蝦名さんは、なんだか吹っ切れた様に見える。きっと沢山悩んで、悩んで、それでもここに来てくれたのだろう。
「それで、結依は……ここにいるのかい?」
「あっ、はい。もう少しこっちに来てもらっても良いですか?」
「そっちに?何かあるのか?」
蝦名さんは、怪訝な顔をしながら、来てくれた。結依の目の前に。
小声で、泣きっぱなしの結依に言った。
「準備は良いか?」
「うん…うん…」
何度も頷く結依に、俺はまた、ニコッと笑って見せた。
「蝦名さん。目を瞑って俺の肩に手を掛けて下さい」
「手を?こうかい?」
蝦名さんは、右手を後ろ向きの俺の右肩に掛けた。
「はい。では、ゆっくり目を開けて下さい」
蝦名さんは、ゆっくり瞼を開き、まるで生きているように、自然とそこに存在する、結依を視界に捉えた。
「ま…さか…結依……?結依なのか!?」
「うん。結依だよ。やっと…やっとまた…会えたね……」
直前まで、グスグス泣いていた結依は、笑顔で答えた。