【告白】

蝦名さん宅を後にした後、俺は、結依に報告をしにいった。
結依はいつも通り、ブランコの上にいて、俺を迎えてくれた。
「蝦名さんに会って来たよ」
「うん」
結依は不安な顔をして、俺をじっと見つめている。
「蝦名さん、結依のこと忘れてなんかいなかったよ。結依が死んだのは自分のせいだって、ずっと自分を責めてた……」
「うん」
「だけど、ずっとずっと、結依を思ってたって。毎日結依のために、線香をあげてたって」
「うん…うん……」
涙を浮かべながら、何度も何度も頷く結依。
「約束は交わせなかったけど、明日、海老名さん、来てくれると思う。もし、来てくれなくても、来てくれるまで、俺が何度も何度も足を運ぶから。安心しろ」
そう言い終えた瞬間、ふいに抱き締められた。
「伊織ちゃん。ありがとうね。本当に本当にありがとう」
あまりに突然の出来事に、唖然として体が固まった。
「私、伊織ちゃんに色々してもらってばっかで、何もお返しできない。どうしよう」
更に言葉を続ける結依に、なんとか答えようとするが、心臓がバクバクして、言葉が出ない。
「伊織ちゃん?」
結依が不思議に思って、俺の顔を見つめている。何か!何か言わなくちゃ!
「お……お礼なんかっ……言うな」
「えっ?」
「お…俺も、お前には色々助けられたっていうか。その……」
「その?」
「こ……この際だから、はっきり言うぞ!お……お前に会うまでさ、幽霊なんかうざったくてしょうがなかったんだ。
ガキの頃はさ、うっかり幽霊が見えるって言ったら、いじめられるし、デートは邪魔されるし、本当に大嫌いだったんだ。
でも……お前は違った。最初は変な奴だって思ったよ?妙に勝ち気だし、何か叶えてくれ!ってお願い事も言ってこないし。
それどころか、タバコ吸いすぎだ~。お酒飲みすぎだ~って。ちゃんと大学行ってるか?飯食ってるか?って、自分が一番辛いはずなのに、俺のことばっかりでさ…。
あんなに嫌いだったはずの幽霊が、俺のこと本気で心配してくれてる。考えてくれてるって。
そんなの初めてだかったから……なんか…すげー嬉しくて。
それから、考えが変わったんだ。幽霊だって、元は人間なんだから話せば分かり合えるんだって。人間と変わらないんだって気づけた。
お前のおかげだ。ありがとう結依」 俺を抱きしめてた腕を降ろし、数歩後ろに下がった結依は、今度はニコッと笑い、言った。
「伊織ちゃん大好き。本当に本当に優しいね」
「なっ!?ええっ?」
動揺しまくってる俺を見て、またニコッと笑って結依は言った。
「伊織ちゃんがさ、まだ、私と知り合う前に公園で見かけた時は、いつも悲しそうな顔してた。たまに泣いてるのも見たことあるんだ……。
私、何にも出来ないから、せめて邪魔だけはしないようにって、できるだけ霊力を抑えて、気付かれない様にしてたの。
でも、初めて会った日は満月だったからか、隠せきれなかったみたい。あっさりバレちゃった」
正直、驚いた。俺に気を使って、隠れてたなんて……全く気づかなかった……。
「でも、本当に見つかって良かった。伊織ちゃんが会いに来てくれるようになって、私だけじゃなくて、オジサン達とも仲良くなって、日に日にイキイキしていく伊織ちゃんが見れて、本当に良かった……。
伊織ちゃんが私を孤独から救っててくれたように、私も伊織ちゃんを助けたかったの……。力になれたみたいで私、嬉しい……」
そう言い終えると、結依はまた、抱きついてきた。
俺は、今度は両手を結依の後ろに回し、言った。
「お互い、助け合えたんだな」
「うん」
しばらく沈黙が続き、徐々に恥ずかしくなってきた俺は、ニヤケながら言った。
「しかし、あれだね。泣きながら抱きついて来るなんて、お前、以外と可愛いところがあるのね」
少し、ムッとしたような、照れたような顔をして、結依は言った。
「伊織ちゃんが泣きそうだったから、可哀想だと思って抱きしめてあげたの。感謝なさい」
「はいはい。左様ですか」
「伊織ちゃんこそ、まんざらでもないじゃない。両腕で、私ガッチリ抱きしめられてますけど?」
「お前、以外と小悪魔なんだな」
「うっさい。馬鹿!」
腹の内をさらけ出した俺達は、それから、いつもの様に、おちゃらけながら朝が来るまで、話し続けた。
次の日の夜、いつもの公園を満月が照らし出し、この世の物ではないような幻想的な雰囲気に満ちていた。
あんなに騒がしかったおっさん幽霊達も、今日は神妙な顔をしている。
「あんちゃん、結依ちゃんの事、頼んだぞ。」
ふっとおっさん幽霊の1人が呟いた。
「あぁ。分かってる。大丈夫だ」
「あんちゃんを信じてるわ。でも、俺らもまとめて、浄霊は勘弁だぜ。俺ら1人1人、やり残したことがまだあるんだ。それを果たさない限り、あっちには行けねぇ」
「あぁ。あんた達それぞれ、歩んできた人生があったんだもんな。手助けが必要なら、その時は呼んでくれ。これ次第で話を聞くぜ」
俺は左手の手首を返し、親指と人差し指をくっ付けて円を作った。
「幽霊から金取んのかよ!だったら、オジサンの100万ドルの笑顔で
払ったる。釣りはいらねぇぜ」
「そんなんいらんわ!」
お互い笑いながら、軽口を叩きあっていたら、少し場の雰囲気が明るくなった。緊張している様だった結依も、おっさんと俺とのやり取りを見て、少し笑ってくれた。
それから、しばらくすると、公園の前の通りにある、幾つかの街灯が、一人の人間を照らし出した。