【激震】

俺のお気に入りだった、静かな公園はもうない。今や、夜な夜な幽霊が大量に集まる`幽霊大運動会会場´と化している。
俺以外は皆、幽霊だが唯一の人間件、霊能力として俺は幽霊達とも、上手くやれてるように感じる。
あんなに厄介だと思っていた連中だったけど、いざ話してみたら、思っていたより皆、きさくで話しやすかった。少し驚いたけど、考えてみれば皆、元人間だから、ちゃんと話せば分かり合える。
今まで、ただただ厄介な連中に思えていた俺には、この事実がたまらなく嬉しく感じた。幽霊だって元は人間。話せば分かり合える。なんだか今日は凄く、世界が広く広く感じた。
そして、そのきっかけを作ってくれたあの公園に。結依に。皆に。今日も会いに行く。
夜、12時過ぎに、公園に向かった。
公園に着くと、いつもはわんさかいる、幽霊が見当たらない。
あれ?おかしいな。みんな寺にお経でも、聞きに言ったのか?
不思議に思いながら、ブランコに目を向けると、結依が珍しく一人で、ブランコを漕いでいた。
「よう。お疲れ。今日皆いないのな」
いつもより、寂しげに見える結衣に話しかけた。
「うん。さっきまで居たんだけど、今は、ちょっとね……」
やはり、何かおかしい。普段はニコニコしながら迎えてくれるのに。
「どうした?なんかあったか?」
「私ね、何で成仏できないのか思い出したんだ」
「えっ……」
一気に場の空気が変わるのが分かった。結依は、俺が来てからずっと下を向いたままだ。
「今日、おじさん達が私を喜ばせようとして、花を持ってきてくれたんだ。私凄い嬉しくて。でも、その時、気づいちゃったんだ……
その花は、クロッカスっていう花なんだけど、私があの日彼氏に、渡せなかった花……なんだ……」
結依の口が言葉を発する度に、自分の胸が締め付けられていくのが分かる。
結依の言葉は、非日常に慣れてしまった俺を現実に引き戻していく。もう話なんて聞きたくないけど、最後まで、聞かなくてはいけないと思った。
「あの日って、その……」
答えは分かっているのに、はっきり言うのが、なんか怖くて曖昧な言葉しか、口には出せなかった。
「うん。私が死んじゃった日。私達ね、あの日の前日に大喧嘩しちゃったの。きっかけは些細なことだったんだけど、お互い気が強いからかな。謝れなくて。
でもね、次の日もデートの約束してたの。この公園で待ち合わせでね。だから、私クロッカスの花束を持って会いに行ったの。クロッカスの花詞は、【愛をもう一度】だから。
でも、渡せなかった。謝れなかった。私……彼に酷いこと言っちゃったまま、死んじゃった……。
死んでから少しの間はね、この場所から離れられたの。それでね、私の葬式に行ったら、彼泣き崩れてた。お母さんも、お父さんも、泣いてたの……泣いて……た……の……」
話終えると、彼女は、身を縮ませて子供の様に泣きだした。
俺は、なんにも出来なかった。何も言えなかった。今までは、なんとなくこの不思議な生活が続けたら良いな。そう思っていた。確かに心地良い。
しかしそれは彼女にとって、本当の幸せではないんだ。彼女を成仏させること。それが彼女の唯一の救いだ。自分の気持ちにけじめがついた時、口が自然と開いた。
「結依。お前を成仏させる。俺ならそれが出来る。お前を助けたいんだ。俺を頼ってくれるか?」
「伊織ちゃん……ありがとう。私、成仏した……い……。彼に謝りたい……」
「大丈夫だ。彼氏をここに連れてくる。全部俺に任せろ。仮にも俺は、霊能力者だぞ。一応プロフェッショナルなんだぜ!」
「うん。ありがとう……」
そう言うと彼女は泣きながら笑った。止まっていた結依の時間が動き出す。