【幽霊なんか大嫌い】

幽霊なんか大嫌いだ。俺は、こいつらが見えるせいで、随分と損をしてきた。歴代の彼女には、橘君といると、寒気がする。誰もいないのに一人で喋りだして怖い。付き合いだしてから悪夢を見る。これ以外にも枚挙に暇がないほど、幽霊のせいで気味悪がられてきた。
今日だって、やっとの思いで出来た新しい彼女とのデートに向かうため、町を歩いてたら、おっさんの幽霊達が俺を見つけて
「よう。お前、見えてるんだろ~。分かってるんだぜ~。なぁ、ちょっと願いがあるから叶えてくれよ」
「うるせぇ。わんさか集まって来やがって。俺は何もしねぇぞ。何かあんなら寺行け。寺」
「嫌だね~。まだ成仏なんて、しないぜ。俺たちは、どこに行こうが、何をしようが自由だ。金だって必要ねぇ。それにお前、女湯だって覗き放題だぜ」
「あぁ。そうかい。そいつは良い趣味だな。生憎、俺は忙しいんだよ。これ以上付いてくるなら、強制的に成仏させんぞ」
「怖っ!最近の若いのは、おじ様を脅すんだね~」
「うるせぇ。早くどっか行け!札貼んぞ!」
「橘君……。さっきから誰と話してるの?」
しまった!希ちゃん、もう来てたのか。どうしよう。なんて、言い訳をすれば良いんだ……。絶対、オカシイ奴だと思われてる。
「あ…あの…えっと、俳優でも目指そうかな…。その練習なんて…ははは…」
ダメだ!苦しすぎるっ。何言ってんだ。俺は。
「…橘君。ごめん。前から思ってたけど、正直気味……悪いよ。いきなり、一人言喋りだりしたと、思ったら、怒り出すし。何かに憑かれてるんじゃないの?」
「あの……その……えっと。実は幽霊が見えるっていうか、希ちゃんの後ろにいるっていうか」
「えぇっ!やだ!気味悪い!もう帰るっ!」
足早に立ち去る彼女。またか。また、いつものように振られてしまった。
「あちゃ~。兄ちゃん。振られちゃったなぁ。まぁ、いきなり幽霊が見えるとか言われればなぁ。兄ちゃん、女心が分かってないわぁ。なんならおじ様が教えてあげようか?幽霊式how to女心」
爆笑する幽霊達。幽霊が幽霊のせいで振られた俺を笑っている。正直、殺意が沸いてくる。
「お前ら、そこに並べ」
「えっ?」
「お前ら、この場で全員成仏させてやるよ!おらぁ!悪霊退散!悪霊退散!」
念のため、いつもバックに入れてある札を幽霊共に大量に投げつける。
「うわぁ!兄ちゃんがキレた!ずらかれ!」

一目散に逃げていく幽霊達。一気に辺りの空気が明るくなった。それと反比例して、俺の一人芝居を見ていた生きている人の視線が痛い。
さて、俺も帰るか……。通報でもされたら大変だからな。
帰って、やけ酒でもしよう。