「悪い、冗談だ」
「……は?」
くくくっ、とそれは可笑しそうに離れるコウさんに唖然とする。
いつもクールな彼からは想像もつかないぐらいの笑顔にビックリして、思わずポカンとしちゃいそうだったけど、私はコウさんに向って声をあら上げた。
「だ、騙したの!?」
「ちがう。からかっただけだ」
「なっ、ひどっ…」
「あんただって、さっき俺のこと面識のない赤の他人扱いしただろ?お互い様じゃね?」
「へっ」
もしかして…、さっきのこと根にもってた?
私が遠藤さんにコウさんとは面識がないって否定しちゃったこと??
「コウさんって、以外と根に持つタイプ?ていうか、あれは申し訳なかったと思うけど、でも私だってその、色々と事情というものがあって」
「へぇ」
「あの時はああ言うのが一番良かったってうか、とにかく深い意味はないの」
そうだよ。私なんかと知り合いだって宗一郎さんにバレたらそれこそコウさんに迷惑をかけるかもしれない。
彼の逆鱗に触れるのだけは本当に嫌だ。
もうこれ以上私の周りの人を誰も傷つけたくないし、悪いようにはしないしたくない。
「ふっ、だからムキになりすぎだって」
「コウさんには私の気持ちなんか分からないよ」
「どういう意味だ」
「別に何でもない。でももうこれ以上は話したくない」
チンっと扉が開いて、エレベーターから素早く出ようとした瞬間、「おい」とコウさんに腕を掴まれた。
その衝撃で持っていた茶色い袋を落としてしまい、エレベーターの外に紅茶の缶がコロコロと落ちてしまう。



