愛情の鎖


エレベーターの前まで着くと、ボタンを押そうとしたわたしの背後から突然クールな声が飛んできた。


「ずいぶんと楽しそうだな」

「へ?」


驚いて振り返ると、何故か先にエレベーターに乗ったはずのコウさんが壁にもたれて腕を組んでいた。


「ああいうのがタイプか、顔がにやけてるぞ」

「は?」


キョトンとする私に嫌味な視線を向けて、エレベーターのボタンを押すコウさん。
いつの間にか私の隣に来ると、意地悪そうに口の端を上げてくる。


「な、なんで?先に乗ったんじゃ……」

「さあ、なんでだろうな」


いたずらに話を交わしたコウさんが面白そうに見つめてくる。

もしかして、私のことを待ってた?

そんな疑問が一瞬浮かびそうになったけれど、その真相を聞く寸前コウさんの口から意外な言葉を投げかけられた。


「あの男はやめとけよ」

「は?」

「ああいうタイプはあんたみたいな単純なお子ちゃまにはまだ早いんじゃね?」

「はぁ?」

「あの胡散臭い笑顔にまんまと騙されて、あの男の都合のいい餌食にされるのがおちだ」

「なっ!」


なんですと!?

聞き捨てならない言葉に、思わずカチンときた。


「ちょっと、何か勘違いしてない?遠藤さんとはただ話してただけで、別に何でもないんだけど!」

「へぇ」

「たまたま美味しいお茶が入ったからって声かけてくれただけで、特に深い意味はないし、遠藤さんはこのマンションのコンシェルジュとして気を使ってくれただけだから!」