愛情の鎖


宗一郎さんはコウさんの存在をきっと知らない。

2人は面識がないのだ。

宗一郎さんが帰ってくるのはいつも朝だし、夜中は仕事に行っちゃうからコウさんと今までちゃんと顔を合わせたことがないと思う。

そもそも隣の部屋に誰かが入居したことさえ知らないんじゃないんだろうか?


「ーーそれにしても、今回の相手はずいぶんと若いのね」

「何のことだ」

「彼女、宗さんの新しい奥さんでしょ」


宗一郎さん達の声が聞こえ、思わずドキリと顔を上げる。

身を固くする私の横でコウさんもまた宗一郎さんの方へと視線を向けたのが分かる。


「楽しそうでいいわねぇ」

「なんだ。ヤキモチか」

「そうよ。だって、最近全然会いに来てくれないんだもの。それに宗さんを本気で愛してるのは私なのよ?そもそもあんな子供で満足できてるの?」


女将さんが色っぽく宗一郎さんにすり寄っていくのが分かる。

宗一郎さんの手を握り、嫌らしく耳元に唇を近づけて何かをヒソヒソと話している。


うん、間違いない。

鈍感な私でもはっきりと分かる。

二人は何か特別で親密な関係なんだということが。