あの時、とは私が宗一郎さんと母の哀れもない情事を見てしまった時のことだ。
今思い返してもショックが大きい。
例えそれが私の為だったとしても、私も母も一生消えない傷を負ってしまったのは確かだから。
「お母さんね、あれからお父さんにちゃんと話したの。今までのことを包み隠さず全部ね」
「…えっ……」
「正直殴られる覚悟だった。ううん、それ以前に離婚されて、見放されてもいいとさえ思ったの」
母はカップを両手で囲うように持ち、ココアを一点に見つめる。
「だけどね、話を全部聞いたお父さんの反応はまるで違うものだった。自分を責めるように突然謝ってきたの。それどころか全て俺が悪いんだというばかりに一緒に泣いてくれたのよ」
お父さん…
その時の状況を思い出したのか、母の声が次第に涙混じりなものに変わっていく。
きっとお父さんもずっと苦しんでた。
こうなったのは全て自分が悪いんだと。
家族を守れなかった自分が悔しくて仕方なかったんじゃなかったのかな?



