愛情の鎖


しまった!というように慌てふためく翔太にじっと視線を向ける。


「別にそんなに気を使わなくていいのに」

「…いや……」

「ちゃんと知ってるし」


宗一郎さんはバツイチ。

だから前の姐さん。つまりその人は宗一郎さんの前の奥さんってことになるわけで。

そのことは以前宗一郎さん本人からそれとなく聞いていた。

例え知らされていなくても宗一郎さんの年齢ならあり得ることだし、特にショックを受けることもない。


「さすが、頭が選んだことがある。姐さんは心が広いんっすね」


そういうことじゃないんだけど…

やたら感心そうに視線を向けてくる翔太に私はげんなりと視線をそらす。


ああ、面倒くさい。

これ以上宗一郎さんの会話で盛り上がりたくはない。だから私はそれ以上そのことについて口を開くのをやめ、消毒液をバッグの中に放り込んだ。


「んじゃ、実家までお送りしやっす」


窓から外を見ると、今にも雨が降り出しそうな曇り空。私はなんとなく気分が上がらずそのままシートに深くもたれかけた。