「だから西田をあんまり甘やかすなって言っただろう」
ため息混じりの表情の裏に、コウさんの意外な熱意を感じた。
ただ、ふざけてただけ……。きっと西田さんに悪気はないことは分かるはずなのに、コウさんの西田さんに向けた「調子に乗りすぎだ」という言葉がちょっと嬉しかった。
だって口調がしゃれにならないし、彼が人前でこんな風に私を抱き寄せるなんてちょっと以外だもん。
まぁ、西田さんには少しばかり可愛そうな気もするけれど…
「西田、今後梨央との接触は最低でも1メートル以上離れてしろよ」
「えぇ〜、そんな殺生な。俺だって梨央ちゃんともっと話した……」
「あ?」
コウさんのさらなる殺気に西田さんの嘆きが途中で止まる。「しまった…」と後悔すると同時に、彼の口からはとうとう諦めの言葉がポツリとこぼされた。
「…はぁ……、分かりました。コウさんがこんなキャラだとは思いませんでした。つーか普段淡白なくせして案外本気の女には必死なんですね」
「るせーよ」
「もういいっす。俺、今から更正します。まだコウさんの下で働いてたいんで。これからは梨央ちゃんにとっていい兄貴みたいな存在になります」
……ん?
その「兄貴」という決意に若干の疑問を感じたが、これ以上この話題に触れたくなかった私は軽くスルーした。
まぁ、2人が仲良くやってくれればそれにこしたことはないもんね。



