愛情の鎖


「ちょっとそこ座って」


そう言って彼が開けてくれた後部座席に翔太を座らせると驚いたように目を丸くする彼。

私はというとそんな慌てる彼を無視してバッグの中から消毒液とガーゼを取りだすと、有無を言わせず翔太の傷口へとそれを当てがった。


「―――てっ!」

「なんでいつもそのまんまなの?」


ヤクザってやつは…


「いつも言ってるでしょ?消毒ぐらいしなさいよって」

「いや、別にこの程度でわざわざ……」

「甘い、そういう考えが後で取り返しのつかないことになるって何度も言ってるじゃない」


私のお母さんは優秀な看護婦だった。

だから小さいころから耳にタコができるほど言われてきた。

「健康で笑っていたいなら小さな傷もほっておいちゃダメよ」って。

どんなに小さな傷も化膿することがある。だから油断しちゃダメだってことを小さいころから叩きこまれるように言われてきたのだ。

それはきっと日常でも同じこと。

小さなほころびに気付いていながらも「これぐらいなら大丈夫だ」と高を括っていると、気付いた時には取り返しがつかないほどの大きな綻びになっている。

そして気付けば大事なものを失い、後で後悔しても遅いのだ。

だから私は小さな傷もできるなら見過ごしたくはない。


例え…それが。

今の自分と矛盾していても…だ。