だけどそれも一瞬、何かハッとした梨央が突然俺の腕を掴み、「しー」と目の前にあった岩陰に押しやった。
「今は何も聞かないで」
「……え?」
「バレたらマズイ……」
そう言って澤田宗一郎の様子をこそこそと覗き見る。
なるほどね…、当然だけど梨央は梨央でこの状況をあの男に気づかれたくはないらしい。
そう思った俺はそれ以上言葉をつぐみ、彼女のいう通りに大人しくそれに従う。
そして澤田宗一郎と女将の話し声に耳を傾けると、次第に隣の体が強張っていく。
とても緊張しているようだった。
無理もない。他の客がいない事をいいことに二人は堂々といちゃつき始めたのだ。
そのべったり様に俺は内心げんなりとする。
ずいぶんとお盛んなことで…
そんなあほらしさが込み上げた時、突然俺の右腕が冷たい感触に包まれた。



