愛情の鎖


梨央の表情が今にも消え入りそうだった。

とても悲しげで、ほっとけばそのまま目の前の池に飛び込んでしまいそうな風貌に俺は何故だかこのまま此処でじっとしていることができなかった。


「わりぃ、ちょっと抜けるわ」

「……えっ、先輩?」


そう言って西田の返事を待たずに俺は喫煙室の扉を開けた。
別に何も驚くことなんてしてねぇ。ただお目当ての被疑者に接触するだけ。いつものように偶然を装って澤田の様子ももう少し近場で把握できればというそんな単純な気持ちだった。


「おい」

「ひゃっ……」


まるで幽霊を見たかのような驚きに思わずクッと吹き出しそうになった。
あからさまに鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする間抜けずらに俺は冷静さを装いながら梨央の顔色を伺う。


「こんな所で会うなんて奇遇だな」

「えっ……」


よほど俺と此処で会うのが以外だったのか、さっきからパチパと可笑しいぐらい瞬きを繰り返している。


「こんな所でなにしてる?」


そうやって訪ねれば、梨央は困惑したようにたじろき、俺をただ見返すだけだった。