こんなの、ズルい。反則だ。
どうしてこういう時に限ってそんなに優しくするの?そんな風に笑うのよ。
この前の時もそうだった。
私が彼から離れようとする時に限って、彼は優しく私の全てを包み込もうとする。私をまるごと捕まえて離さない。
いつもはあんなにぶっきらぼうなくせに。どうしてよ。意識がもっていかれる。心も体も何もかも全てーー…
「梨央……」
「…っ……」
本当に切ないってきっとこういうことを言うんだ。
気持ちをまるごと持ってかれそうな熱い眼差し、そして想い。
体がわなわなと震え出す。
誰かにすがりたいって初めて思った。
背負ってるものを何もかも捨てて、この人に助けを求めたらどんなに楽なんだろうって、
「…コウ……」
涙がポタリと落ち、拳銃を持つ手から力が抜けた。そして次の瞬間弱々し叫びだけが静寂な夜空に響き、私の口からポロリと落ちた。



