愛情の鎖


宗一郎さんが私の横を通りすぎ、キッチンへと向かう。

思わず言葉が出なかった。

彼が私に向ける笑顔、それが普通すぎて逆に不気味に思えた。

まるでさっきの出来事が嘘のような彼の振舞い。鼓動がドクドクと加速し始める。


「…あの……」

「お母さんとはゆっくり話しはできたの?」

「えっ」


宗一郎さんがコーヒーをかき混ぜながらそう言った。

下を向いてるせいか彼が今どんな顔をしているのかよく分からないけれど、その表情を見るのが怖かった。

確かにあの時、実家で母と絡み合うベッドの上で宗一郎さんと目があった。そしてニヤリと笑ったのだ。まるで嘲笑うかのように。

それなのに彼の心境が分からない。いったい何を考えてるのか…

思わずぎゅっと拳を作ると、そのタイミングで宗一郎さんが顔を上げた。