マンションにたどり着くと私は目を閉じ、深い深呼吸をして玄関のドアを開けた。
6畳ほどある広い玄関。
やけに不気味な静かさが漂ってると思った。
そこには宗一郎さんが愛用している革靴が置いてあり、予想通り彼がすでに帰宅しているのが分かった。
きっと私を待っていたのかもしれない。
そう思いながらリビングのドアを明けると、彼が涼しい顔をしてソファーに座り新聞を読んでいた。
そんな態度に少し戸惑いながらも冷めた眼差しを送る私は、この後に待つ本当の恐怖にまだ気づいていなかった。
「お帰り、早かったね」
やけに穏やかな声だった。
顔を上げ、目が合うと彼は優しげに目尻を細めてゆっくりと立ち上がる。
「もっとゆっくりしてきたらよかったのに。今からコーヒーを入れようと思うんだけど、梨央も飲むかい?」



