澤田宗一郎、彼だけだ。
泣き崩れる母の隣で私も止めどなく泣いた。
悔しくて悔しくて、どうしようもなかった。
母の手を握り返し何度も「お母さ……」と呟くと、今まで闇に葬っていた怒りがふつふつと蘇ってくるようだった。
許せない、どうしても。
彼のやり方が許せなかった。
人の弱い部分をえぐりとるような卑怯な手段。
どこまでも容赦ない彼の残酷さ。
もう見て見ぬふりなんてできない。我慢できなかった。
その後、しばらくして泣き晴らした顔で玄関を出ると、待ち構えてたように家の前に翔大が車を停車させ立っていた。
それが宗一郎さんの指示だということはすぐに分かった。
だから何も言わなかった。
「…姐さん……」
戸惑い気味に声をかける翔太に目も合わせず、私は車に乗り込んだ。



