愛情の鎖


「…あ、ありがとうございます……」


そう返せば「どういたしまして」と、クールなまでの改まった言葉が返ってくる。

それでも翔太の機嫌は直らなかった。

完璧なコウさんの演技。そのはずなのに翔太の額からは険しい眉間のしわが残ったまま。

冷静すぎるコウさんの態度に対して逆に反感をかってしまったのか……


「それじゃあ、俺はこれで」

「……おいっ」

「あっ、いたいた晃一ー!」


その時、コウさんの1メートルほど後ろから可愛らしい声が飛んできた。

ふんわりとした落ち着きのある質感、そして柔らかな口調。その声には聞き覚えがあって、
思わずそっちに視線を向ければ、やっぱり思った通りの唯さんだった。


「もう、探したじゃない。こんな所で何してるのよ!」


コウさんの隣に来るなり、プリプリと腕を引っ張る唯さん。
私と翔太を見るなり不思議そうな顔して首を傾けた。


「晃一のお知り合い?」


その姿はまるで恋人同士のような振る舞いだった。

私を見つめる唯さんの視線。

それは私に向かって「大丈夫よ」と言ってるように見えて、
唯さんもまた完璧な演技。この場を丸く納めようとしてくれてる。

そう思った直後、


私は安堵し、体からゆるりと力が抜けていく。