「そう言えば、宗一郎さんってまだ仕事なの?」
もうすぐお昼。なのに彼はまだマンションに帰ってきていなかった。
メールも電話もない。
まぁ、こんなことは珍しくはないけれど…
「………そうっすね、えっと、今日はまだ事務所の方にいるかと……」
「なんか歯切れの悪い言い方ね」
「いや、まじ、本当っす!」
技とらしく目を反らした翔太に、私はなんとなく彼が嘘を言っているんだとすぐに分かった。
相変わらす嘘が下手な男。
「目が泳いでる奴に言われても説得力なんてないんだけど?」
「え?いや、俺は至って普通に、ありのままの事実を……」
「そうね。他の女のところいるなんて死んでも言える訳がないもんね」
ギョット目を開く翔太。私は思わず立ち止まると、何だか必死すぎる姿に笑いが込み上げてしまった。
「あんたもまだまだね。普段威勢だけはいい癖に、肝心なところでゆるゆるに詰めが甘いんだから」
「そんな事じゃ到底ひよっこ、あんたの目指す大物にはなれないわよ」そう言って嫌みを放り投げると、翔太の顔がみるみるうちに苦笑いに変わっていく。



