「わっ、きゃっ……」
すると私はあろうことか、ベランダとリビングの境の段差に足が引っ掛かりつまづいてしまった。
イタタッ、と尻餅をつくと、そんな隙をみてコウさんの呆れた顔が近付いてくる。
「くっ、慌てすぎだ」
コウさんのデコピンが落ちてくる。
私は恥ずかしさのあまり自分の膝に視線を落とす。
「そんな警戒されると余計苛めたくなるんだけど?」
「か、からかったの?」
「お前がドギマギしすぎだろ」
また、デコピンされた。
ムムムッと眉間にシワを寄せると、彼の視線が今度は私の首もとに降り注ぐ。
「カーディガン、肩からずり落ちてるぞ」
「えっ?あっ」
本当だ。
恥ずかしい…
今日はシフォン素材のサラリとしたノンスリーブを中に着ているせいか、やけに滑りがいい。
しかも今日に限っていつもより鎖骨が見えるデザイン。
「たく、しょーがねーな」
コウさんの手が伸びてくる。
その言葉は「まったく手がかかる…」とでもいいたげなニュアンス。
そして私よりも先に滑り落ちたカーディガンを直そうとしてくれる仕草がやけにスマートで落ち着きを放っている。
悔しいけど勝目なし。
所詮私はまだ20代になったばかりの小娘にすぎず、目の前の彼はそれ以上に人生をやり過ごしてきたどっしりとした大人なのだ。



