愛情の鎖


「ねぇ、コウさん」

「なんだ、もうビールは止めたのか?」


コウさんはベランダの手すりに両肘を付くように立っていた。

振り返ったコウさんが灰皿に煙草の灰をトンっと落とす。

私は同じようにベランダに出ると、そんな彼に向かって少し迷いながら声をかけた。


「あの、あのね。聞きたいことがあるの」

「……聞きたいこと?」


さっきとは少し変わり真剣な表情を向けた私にコウさんは少しだけ首を傾ける。

夜風が気持ちいい。
体にそよそよとまとわりつく夏の終わりの爽やかな風が。



「コウさんって、何者、なの?」


私は手のひらをぎゅっと握った。
今日こそは聞くぞっと、覚悟を決めていた。


「仕事は?何してる人?」


少し真面目に、しっかりと目を合わせた私にコウさんはどうやって返すのだろう。

かなり緊張。だけど好奇心のほうが断然高い。

一瞬動きを止めたコウさんがジュッと、灰皿に煙草を潰す。そして何かを察したように私に向かって口元を上げた。


「やっと俺に興味が出てきたわけ?」

「えっ?」

「つーか、今まで俺の素性なんて全く興味なかっただろ」

「あ、いや……」


まさにその通り。私はコウさんが何処の誰だか全く知ろうともしなかった。

でも、今は状況が違う。私の気持ちも以前とはガラリと変わったから。