「アホか、何で謝る」

「だって怖くないの?ただでさえ結婚してるのに…」


しかも夫は宗一郎さん。普通の人とは訳が違う。

不安を吐き出すように私が宗一郎さんの素性を少しだけ話すと、コウさんはゆっくりと私を離し、いたって普通の顔で私を見下ろした。


「それがどうした」

「えっ……」

「それを望んだのは他でもないこの俺だ。そんなことで梨央が悩む必要はない」

「…でも……」

「望むなら、俺がお前を自由にしてやる。お前が本気で俺を必要としてくるなら、あの男から梨央を解放してやるよ」

「…えっ………」


……本当、に?

本当にそんなことができるの?

信じられない気持ちで瞬きをした。コウさんの口元が優しく上がる。


「ただし、タダとは言わないけどな」

「えっ…」

「とりあえずキスぐらいさせてもらおうか?」

「…きっ……!」


息つく間もなく言われた言葉にギョッと驚きを隠せない。

面白いぐらい動揺する私に対して、コウさんは格好いいほどスマートだ。


「嫌か?」

「い、嫌じゃ……」


……ない。

そう言えたかどうだか分からないトーンで真っ赤に呟くと、返ってきた反応は釘付けになるほどの憎たらしい笑顔。

そして彼の指先が私の顎を捕らえ、そのまま上を向かされると、強引な仕草にゾクッと自分でも動揺するぐらい背筋に緊張が走った。


「もう、後戻りはできねぇからな」

「…コウ………」


発した途中で唇が押し当てられる。

それは優しく、そっと押し付けられるようなシンプルなキスだったけれど。

顔を離され、もう一度されたキスは…




「…んっ……」



とても強く、情熱的なものだった。