「……事情が、あるの」
だけど少しの間をおき、私はそう言った。
コウさんの眉が一瞬ピクリと動いたけど、私は宗一郎さんからの呪縛からはどうしても逃げられない。
「…言った、でしょ?私の旦那、宗一郎さんは普通の人じゃないの。彼を怒らせたらどうなるか分からない。コウさんにだって危険が及ぶかもしれない」
そうなったら、考えただけでも嫌だ。
きっと私は耐えられない。
コウさんに何かあったらと思うと、宗一郎さんの魔の手が及ぶんじゃないかって思ったら、怖くてたまらない。
「コウさんが死んじゃったら困る」
好きだから。
大好きだから、コウさんには安全な所にいてほしいの。
私なんかのために人生を棒にふってほしくない。
「コウさんが大切なの。だから私とはもう……」
"会わない方がいい"
コウさんの人生をめちゃくちゃにしたくない。
だからお願い、もうこれ以上何も言わないで。
言いながらポロポロと涙がこぼれると、コウさんの顔が涙でぼやけて見えなくなった。
それでもまたすぐに彼の表情がちゃんと鮮明に移ったのは、彼がもう一度私の涙をしっかりと拭ったから。



