「美味しい?」とは聞けず、「どうぞ」とお茶をカウンターに置くと、コウさんが私の方へと視線を上げた。
「お前は食べねーの?」
「えっ、いや、私はさっき食べたから……」
「ふーん、じゃ、一口食う?」
たった今自分の口に入れたスプーンで、炒飯をひとすくいし、私に当たり前のように差し出すコウさん。
私はまたしても顔を赤くした。
だって、まさかの間接キス、だよね?
別にこんなことはどうってことない。コウさんだって特に意味があってやってるわけじゃない。それに普段宗一郎さんとはそれ以上のことを沢山してるんだ。
……なのに、心臓がバクバクする。
相手がコウさんだってだけで、こんなにも意味があるものに変わってしまう。
「…えっと……」
またしても私が固まったまま言葉を濁していると、コウさんは痺れを切らしたようにずんっと眉を寄せた。
「なに?お前炒飯嫌い?」
「あ、違う、そうじゃないけどっ……」
「だったら、ほら。別に遠慮しねーで食え」
「わっ……ぅむ!」
強引に口の中に入れられた。
口の中に今しがた自分の作った炒飯の味が広がっていく。同時に聞こえたコウさんの柔らかな声。
「美味いだろ」
「………」
もう心臓が破裂しそうだった。
コウさんの笑顔が眩しい。
どうしてそんな顔するの?
何で今日に限ってそんな風に優しくするの?
私は複雑な気持ちのまま、無言で少しだけ頷くしかできなくて…



