愛情の鎖


ヤバイ、緊張する。

幸いこちらに背を向けているせいか、私が来たことにコウさんはまだ気付いていない様子。

だからなんとなく、じっと見つめてしまった。

後ろ姿でもいい。彼の姿を脳裏に焼き付けておきたかった。
コウさんの立たずまいは決して綺麗だとは思わないが、妙にスマートで格好よく見えるから不思議。

コウさん独特の緩い立ち振舞いも、煙草の吸いかた一つも全て、今の私にとってトキメク要素に追加されてしまうのだ。


「こんばんは」


のそり、のそり近づくと私は背後から声をかけた。

今じゃすっかり私達の間に憚る柵を飛び越えるのはお手のもの。

振り返ったコウさんは私に気づくと、短くなった煙草を持っていた灰皿で押し潰した。そして視線を合わせるなりうっすら口元を上げる。


「よお」


その表情にまた、トキメキが一つ増える。


「珍しいね、今日はこんな所で黄昏中?」

「さぁな、俺だってたまには色々考えてることがあるんだよ」

「ふーん」


そこまで言って、何となくコウさんから視線を反らした。やけに緊張するなぁ。

でもコウさんとこうして会話できるのがめちゃくちゃ嬉しい。思わず頬が緩みそうになってしまうのを私は必死で心の中で押し留めた。