愛情の鎖


きっとまだ引き返せる。

今ならまだ気持ちを押さえ込む事ができるから。

蕾のまま、コウさんへの思いを閉じ込めることができると思ったからだ。



「よし!」


そうと決めた私は急いでキッチンに立った。

昨日のお礼を込めてティラミスを何個か作ると、簡単にラッピングをして大きく深呼吸した。

そしていつもはあまりしない化粧をすると、鏡の前で笑顔をつくる。

最後ぐらいは綺麗な姿で会いたい。そして可愛くいたいっていうのが細やかな女心。

不思議だね。こんな私がまた誰かを好きになるなんて思わなかった。しかもあのお世辞にも愛想がいいとは言えないコウさんにだ。

私は切なさを隠すようにグロスをぬると、ゆっくりと屋上へと向かった。

いつも以上にドキドキする。

はたして、コウさんの顔をちゃんと見ることができるだろうか?

そんなドギマギした思いを胸に秘めながら屋上にたどり着くと、いつものようにコウさんがいた。

ベンチではなく、珍しく少し離れたフェンスに寄りかかりながら煙草を吸う彼の姿を視界に入れた時、ドクンと一瞬にして胸が踊り出したのが分かった。