愛情の鎖


「そういえばまだ自己紹介はまだだったわね。私、松本唯、晃一と同じ職場で働いてるの」


彼女が口元を優しく緩めながら、私にお茶を手渡してくれる。

隣にはコウさんもいて、彼女、唯さんの言葉に無言で同調しているようだった。


唯さん…

コウさんと同じ職場なん、だ。

そんな挨拶を聞きながらズキリ、また得たいの知れない痛みに教われる。


「えっと、あなたは……」

「あ、りおうです。澤田梨央」

「うん、梨央ちゃんね。実は晃一から聞いて知ってはいたんだけどね」


そう言った唯さんは、何故か意味深にふふふっ、とコウさんの顔を見た。


……コウさんから?

いったいどんな風に話してたんだろう。

何となく首を傾ける素振りをすると、何故か唯さんがニヤリと口元を上げる。


「隣にね、とっても可愛い人妻ちゃんがいるって」

「えっ?」

「それはもう、嬉しそうに」

「おい!」


一瞬顔を赤らめた私をよそに、すぐさまコウさんの険しい口調が宙を舞う。

まるで反論でもするように、隣の唯さんに向かって恐ろしい声を飛ばす。


「俺はそんな事は一言も言ってねぇ、勝手に話をつくるならしばらくこの部屋の出入りを禁止するぞ」

「はは、バレたか。てか、そんなに怒らなくてもいいじゃない。ただの冗談、可愛らしいユーモアじゃない」

「どこがだ、お前が言うと洒落にならん。冗談は顔だけにしとけよ」