愛情の鎖


「お知り合い?」


そう言ってコウさんの隣に歩み寄った女性は、一目見て分かるほどとても可愛らしい人だった。

黒髪のふんわりショートがよく似合うその人は、とても小顔で、コウさんにパチパチとキュートな瞳を向けている。

その時、ズキリと胸が騒ぐ感じがした。


「……ああ、隣の部屋の…」

「あっ、もしかして晃一がいつもお世話になってる人妻ちゃん!?」


なぜか興奮気味にコウさんの腕を掴んだ美女が、私に向かってそんな事を言う。

その隣でコウさんが珍しく「……」と、戸惑う素振りをみせていて、何だかとても気まずい空気を感じた。


「晃一、私にも紹介してよ」

「え?…ああ……」


そんなやりとりが鼻につく。

何が嫌だって、「晃一」と呼ぶその女性の無邪気なトーン。そして慣れ親しんでいる2人の仲のいい空気。

女の人が何故私を見てこんなに目を輝かせてるのか分からないが、とても息苦しい感覚に襲われた。


「ごめん、私急いでるから…」


これ以上2人の前にいたくなくてたまらずそう言った。

もしかして肺の機能が落ちてるのかな?やけに回りの空気が薄く感じ、私は2人の間をすり抜けエレベーターに乗るのが精一杯だった。


「おい」


だけど、捕まれた腕に再びドクンと心臓に激しい衝撃を受ける。


「お前、顔色が……」

「えっ……」


驚いた直後、コウさんの焦った表情が視界に写る。

何を言ってるの?

そう思ったが、何故かそのまますーっと目の前が暗闇に落ちていく。
次第に立っている感覚もままならなくなり、声も出せなくなった私はふらりと体勢を崩し


「梨央!」


その後の記憶がプツリと消えた。