愛情の鎖


宗一郎さんは何より肉が好きだ。

そんな宗一郎さんが支度を終えた私の肩を引き寄せる。そのままエレベーターを一緒に降りると、遠藤さんがいるエントラスにたどり着いた。


「おはようございます。澤田様」

「何か変わりはないか?」

「はい。今のところは特に変わったことはありません」

「そうか」


宗一郎さんは遠藤さんを見ることなく、素っ気なく言った。
ただっ広いエントラスに今日も遠藤さんの爽やかな声が響く。

チラッと彼の方を見れば、目があった瞬間とても素敵な笑顔を向けてくれて、今日も穏やかな気持ちにさせてくれる。

そういえば、この前のこと宗一郎さんには言ってないのかな?

偶然とはいえ、コウさんと此処で顔を合わせて少し話したこと…

一瞬怪訝な気持ちがよぎったけど、横にいる宗一郎さんはいたって普通。何も言ってこないし、カウンターにいる遠藤さんも特に言った気配がなさそうに見えるからあまり深く考えないようにした。



「おはようございます。真白様」



その時、ピタリと足が止まる。

爽やかに向けられた遠藤さんの声の方に意識を向けると、そこにはずっと会いたかったコウさんの姿が…


ドキン…

ちょうど真っ正面から歩いてくるその容姿。

玄関ホールから気だるそうに歩いてくる男は間違いなくコウさんで、一週間ぶりに見る姿に思わず緊張が押し寄せる。