そんな数日前のことを思い出していると、羽織っていたロングカーディガンのポケットの中から入れていた携帯電話の着信音が鳴った。
「もしもし」
出ると相手は母からだった。
あれから母ともちゃんと連絡をとることができた。
コウさんの看病を終えた次の日ぐらいに母から連絡をくれたのだ。
その時電話越しの母は今までと何も変わらず、いたって普通の感じのように見えた。
『元気?最近忙しいの?』と聞けば、
『何もないわよ。ただちょっと最近雑貨屋を経営してる友達に頼まれて、少しだけ手伝いに行ってるだけよ』
と、いつもの柔らかい声だったから少し安堵した。
気になっていたストールの香りも、その友達に一度か二度貸したからそのせいじゃないかしら?という答えが聞け、やっぱり自分の気のせいだったんだと思い直し、変な考えは振り払うことにした。
きっとあれはただの偶然。
私の思い過ごし。
そう判断することで、私の胸に張り付いていたモヤモヤは解消することができた。



