終電直後のタクシー乗り場は、長蛇の列ができていた。

雨はだいぶ小降りになっており、傘を差さなくてもしのげるくらいだ。

「まいったな。あれじゃ30分は待つな」

「なんであたしを帰そうとするのよぉ~」

アケミは呂律も回らぬほど酔っていた。

「おまえ、帰ったほうがいいって」

「いやだ、帰らない。
ここでタクシーを待つんだったら、もう30分だけどこかで飲もうよ。
その方がいいよ」

「うん、まぁ、それもそうだな」


見回すと、一番近い雑居ビルの2階がbarのようだった。
2階の窓にドイツの国旗が飾ってある。

アケミと手を繋ぎながら狭い階段を上がっている途中だった。

「ねぇ、キスして」

えっ?

一瞬戸惑ったが、すでにアケミの方は目を閉じて、顎を突き出している。

しゃーない。

勢い余って、体ごとぶつけるように、激しく唇をぶつけた。