朝日が昇り始める少し前、僕は意識を覚醒させる。

いつものように部屋で精神統一をする。

まだ誰も起きていない、この静かな時間が僕は好きだった。

誰にも邪魔されない。
僕の家は少し、いや、かなり特殊な家だった。

関東を治める妖怪の一族、奴良組。
妖怪任侠一家として、名を馳せる組だ。

今は初代である父は引退。
ご隠居として好き勝手に生活している。

そして二代目は僕の弟である鯉伴だった。
帝都の時代を駆け抜けた鯉伴の代は、全盛期を迎えた。

誰もが鯉伴に畏れをなして、
ある者は怯え、ある者は憧れを抱いた。

そして、あるときを境に若くして引退。
息子であるリクオに三代目を譲り、今は会長として組を支えている。

今のリクオの代は、二度目の全盛期を迎えようとしている。

着々とシマを広げ、全国の猛者とも交流を深めつつある。

僕は奴良組の長男で。
本来なら僕が二代目にならなきゃいけない。
でも僕はそうしなかった。

僕は鯉伴と比べて弱かったから。

いや、そうじゃない。

僕は確かな実力は持っていた。
母の治癒能力を母以上に強く受け継いだ。
妖力だって鯉伴や父と互角に戦えるほど強い。

でもそうしなかったのは、性格の違いだった。

鯉伴は普段飄々としていて遊び人だが、
敵相手には容赦しない。
組を護ろうと、大切な人達を護ろうとしている。