ラブレター2

手に取った、右ポケットから出てきた携帯電話。

am.1:07

それと同時に逃げ出した、クシャクシャの煙草。

よいしょ。と声にして、それを拾い、最後の一本を取り出した。

シュッ。と、左ポケットから取り出したマッチ。

何故か、夜の遊びが増えたせいで、その回数分、マッチの数も増えた。

リンの匂いが、鼻先を通り、空へ消えて。

煙草と同時に持っていた手で、携帯電話を開いた。

寒くはないけれど、震える指で、通話ボタンを押してみたんだ。

耳に添えて、大きな貝殻から聞こえる、海の音を聞くように。

…鳴り出す呼び出し音。

ワンコールずつ聞く度に、何度、終了ボタンに親指が動いたか。

「あっ。」

「…もしもし。」

眠たい声の、あいの声が、僕には聞こえてきたんだ。

am.1:14

「久しぶりだね。」

全く、久しぶりではなかったが、何を話していいかも分からずに、出てきた言葉。

「いや、この前、話したし。」

見透かされたように返ってくる答えに、少し笑って、そうだね。と言っていた。

「なに?」

寝ていたであろう声に、ごめん。しか言えなくて、謝った言葉の後に、今までごめん。と頭の中で思っていた。

「大丈夫だよ。」

あいの優しさに触れると泣きそうで、抑えてあった気持ちを隠せなくなりそうで、冷たい態度になってしまう。

「元気そうならいいや。じゃーね。」

「…………。」

何も帰ってこない返事に、今度は、強く放つサヨナラ。

「…………。」

もう一度言ったら、勝手に切ろう。と思っていた。

「じゃ…」

歩きながら話していたから、その間に着いた家の玄関前。

ぎゅっ。と携帯電話を耳に押し付ける。

am.1:22

「おい。」

僕には聞こえた。

「おい!!」

呼吸を上手くできていない、あいの吐息が。

「大丈夫か?救急車呼ぶか?」

荒くなっていく呼吸に、あいがいなくなるんじゃないか。って、怖くなった。

「袋とかある?動ける?」

電話しかしてあげれなくて、近くにいない自分が情けなくて、唇を噛みしめていた。

「ごめんな。」

もう、彼女。ではないけれど、これまで一緒に歩いてきた人。

とても、大切な人。

「落ち着くまで、切らないから。」

「ご…めん…。」

消えそうな声で、何度も呟かれる。

「謝らなくて、いいから。大丈夫か?」

ずっと、ごめん。と繰り返される言葉に、うん。と、あいが落ち着くまで、返事をしていた。

小学生の頃から、見てきたのに。

きっと、自分が電話しなかったら、こんなことにならなかったのかもしれない。と、自分に腹が立った。

「ごめん…。」

自分を否定されているような言葉を、もう聞きたくなくて、

「もう、いいから。なっ。」

笑って、言っていた。

「笑ってるあいが、ゆうくんは、好きだから。」

「ごめん…。」

好き。の単語を、もう本人に言わないようにしていたけれど、

「だから、謝らないで。」

「ごめん…。」

それ以上に、君には笑っていてほしくて、

「次、謝る度に、キス一回するからな?」

冗談ばかりを言っていた。

「うん…。ごめん。」

「やったね。キスポイント、ゲット。」

あいを、本気で好きになれたこと。

こんなに、人を愛したこと。

「ありがと。」

あいの、その言葉の意味に、僕の、ありがとう。は伝わっているのかな。と、玄関先で、座って聞いていた。

am.1:49

「もう、大丈夫。最近、調子悪くて。」

救急車にも運ばれた。って、そんなに悪いの?と話していた。

「心配だから、一度見に行くよ。」

「いや、いいよ。」

少しだけ笑いながら言われ、その言葉に、ショックもあったけれど、

「え?嫌だよ。キスポイント、ゲットしたし。」

何だそれ。と言われながら、

「最後に会おうよ。」

もう一度、笑って、言っていた。

「気分が乗ったらね。」

そんな言葉に、

「おう。おやすみ。」
「おやすみ。」

と、電話を終えた。




辺りは、まだ暗く、木々の揺れる音だけが響く。

きっと、自分のせいだ。と思う気持ちと、やっぱり、好き。と思う気持ち。

それよりも、強く感じた。




今、君に会いたい。