『飛行機、降りたよ。』
携帯を少しの間、眠らせては叩き起したのも、誰よりも一番に何でもあいに伝えたかったから。
勿論、授業中の時間に返事がくることもなかったけれど、隣にあいがいるような気がして、早くメールでもいいから、話したかった。
『大丈夫?着いた?』
実家から空港まで、距離があったのだけれど、好きな音楽活動でのファンの子に送ってもらったことを忘れていた。
何故か運転は自分だったから、送ってもらった。と言うより、車を貸してもらってのドライブ。になるのかな。
『着いた。ありがとね。』
送信した子ではなく、携帯電話の電源を切っていたために生まれた、時差があったその子のメールに、返事をして、歩き始めた午後の空港の匂い。
都会に来たのも初めてだから、待たなくてもいい列車の数に僕は驚きながら、電光掲示板や時刻表を口を開けて見ていた。
「あの、すみません。ここに行きたいのですが、どこで何に乗ればいいんですか?」
見慣れない街の名前に、堪らず駅員さんに声を掛けた。
きっと、方言混じりで、伝わってなかったのかもしれない。
「これ。そこ。」
そう思い込もうと思う以上に、季節に合ったような駅員の説明は、滅多に言葉にしないが、身も心も凍るようだった。
あの野郎。と思いながら、言われたようにエスカレーターに乗っていたら、後ろから、
「っち。」
と、舌打ちが聞こえ、睨み返したら、
「お兄さん。左に寄りなさい。」
昔は可愛かったんだろうな。と思うような、品のあるお婆さんに声を掛けられた。
仕方なく、言われた通りに左へ寄ると、駆け足で登る人に、人。
「これは、何ですか?」
と聞いた答えは、都会では当たり前のように、エスカレーターは左に乗るのが基本らしく、急いでいる人は、右側から、駆け上がっていくそうだ。
お婆さんにお礼を言い、背負っていたギターと、右手で抱えた寝袋を、教えてもらった列車の中に持ち込んだ。
忙(せわ)しい人が多いんだな。なんて思いながら、空いていた席に座り、ギターを下し、動き出した外の景色を見ていた。
「あっ、どうぞ。」
今度は、風でも吹いたら吹き飛ばされそうなお婆さんがいて、座っていた席を譲り、僕は吊り革を握り締めていた。
周りを見渡すと、同じ年代だろう男の子が、マニアックなTシャツを着ていたり、電車の中でゲーム機を楽しそうに眺めている人たちを見た時には、違う意味で、都会への怖さ。が芽生えた。
猫背で捕まっていた吊り革を離し、目指していた場所、
「次は~」
の声と、表示された地名を確認し、長い列車の、長い時間を終え、人だかりの息苦しさから解放されながら降りた駅。
携帯を、パカッ。と開いても、まだ、あいからの返事は来ていなくて、下を向きながら歩いていた僕は、周りからは、すごく落ち込んでいる人に見えるのだろうか。
持っていた切符を改札に通し、歩いて数分にある不動産に真っ直ぐ向かった。
若そうなお兄さんに、何事も無く渡された部屋の鍵。
どうも。と言いながら、自動ドアを潜(くぐ)り、目の前を通り過ぎていく自転車の数が凄くて、よくぶつからないな。と感心しながら、歩き始めた。
段々と、見えてきた白い建物。
「着いたか。」
ここから、新しい生活が始まるのか。と思う気持ち。
何故か、二つある頑丈にロックされた玄関に、首を傾げながら、先ほど貰った鍵を、僕は差し込み、カチャ。と回した。
「た…ただいま。」
と口にした後、いや、初めまして。ではないだろうか?と、一人で頭の中で会話していた。
百二十度くらい開いたドアを閉め、セピア色のスニーカーを、右足から脱ぎ捨てた後、背負っていたギターケースを降ろし、寝袋を投げ捨てた。
取りあえず、冷たいフローリングに寝転がり、時間を見ようと携帯電話を開いた。
新着メール1件。
受信ボックスのフォルダ名。
あい。
携帯を少しの間、眠らせては叩き起したのも、誰よりも一番に何でもあいに伝えたかったから。
勿論、授業中の時間に返事がくることもなかったけれど、隣にあいがいるような気がして、早くメールでもいいから、話したかった。
『大丈夫?着いた?』
実家から空港まで、距離があったのだけれど、好きな音楽活動でのファンの子に送ってもらったことを忘れていた。
何故か運転は自分だったから、送ってもらった。と言うより、車を貸してもらってのドライブ。になるのかな。
『着いた。ありがとね。』
送信した子ではなく、携帯電話の電源を切っていたために生まれた、時差があったその子のメールに、返事をして、歩き始めた午後の空港の匂い。
都会に来たのも初めてだから、待たなくてもいい列車の数に僕は驚きながら、電光掲示板や時刻表を口を開けて見ていた。
「あの、すみません。ここに行きたいのですが、どこで何に乗ればいいんですか?」
見慣れない街の名前に、堪らず駅員さんに声を掛けた。
きっと、方言混じりで、伝わってなかったのかもしれない。
「これ。そこ。」
そう思い込もうと思う以上に、季節に合ったような駅員の説明は、滅多に言葉にしないが、身も心も凍るようだった。
あの野郎。と思いながら、言われたようにエスカレーターに乗っていたら、後ろから、
「っち。」
と、舌打ちが聞こえ、睨み返したら、
「お兄さん。左に寄りなさい。」
昔は可愛かったんだろうな。と思うような、品のあるお婆さんに声を掛けられた。
仕方なく、言われた通りに左へ寄ると、駆け足で登る人に、人。
「これは、何ですか?」
と聞いた答えは、都会では当たり前のように、エスカレーターは左に乗るのが基本らしく、急いでいる人は、右側から、駆け上がっていくそうだ。
お婆さんにお礼を言い、背負っていたギターと、右手で抱えた寝袋を、教えてもらった列車の中に持ち込んだ。
忙(せわ)しい人が多いんだな。なんて思いながら、空いていた席に座り、ギターを下し、動き出した外の景色を見ていた。
「あっ、どうぞ。」
今度は、風でも吹いたら吹き飛ばされそうなお婆さんがいて、座っていた席を譲り、僕は吊り革を握り締めていた。
周りを見渡すと、同じ年代だろう男の子が、マニアックなTシャツを着ていたり、電車の中でゲーム機を楽しそうに眺めている人たちを見た時には、違う意味で、都会への怖さ。が芽生えた。
猫背で捕まっていた吊り革を離し、目指していた場所、
「次は~」
の声と、表示された地名を確認し、長い列車の、長い時間を終え、人だかりの息苦しさから解放されながら降りた駅。
携帯を、パカッ。と開いても、まだ、あいからの返事は来ていなくて、下を向きながら歩いていた僕は、周りからは、すごく落ち込んでいる人に見えるのだろうか。
持っていた切符を改札に通し、歩いて数分にある不動産に真っ直ぐ向かった。
若そうなお兄さんに、何事も無く渡された部屋の鍵。
どうも。と言いながら、自動ドアを潜(くぐ)り、目の前を通り過ぎていく自転車の数が凄くて、よくぶつからないな。と感心しながら、歩き始めた。
段々と、見えてきた白い建物。
「着いたか。」
ここから、新しい生活が始まるのか。と思う気持ち。
何故か、二つある頑丈にロックされた玄関に、首を傾げながら、先ほど貰った鍵を、僕は差し込み、カチャ。と回した。
「た…ただいま。」
と口にした後、いや、初めまして。ではないだろうか?と、一人で頭の中で会話していた。
百二十度くらい開いたドアを閉め、セピア色のスニーカーを、右足から脱ぎ捨てた後、背負っていたギターケースを降ろし、寝袋を投げ捨てた。
取りあえず、冷たいフローリングに寝転がり、時間を見ようと携帯電話を開いた。
新着メール1件。
受信ボックスのフォルダ名。
あい。

