ラブレター2

気が付けば、窓の外は、また、白い季節になっていた。

助手席に座るあいと、車の中で話をしていた。

路上の隅っこに隠れ、ハザードは点けないまま、

「もうすぐ、この街とも、お別れだな。」

少しの寂しさを交えながら。

「頑張ってね。」

うん。としか言えないまま、曇ったサイド硝子に、あい。と書いていた。

自分で決めたことだから、あいの言葉は正しいことなのだろうが、行かないで。寂しいな。そんな、言葉を期待していた自分。

「別れよう。」

いつも、自分の弱さに負け、嫌われてサヨナラしたり、距離のせいにしたりしたくなくて、心と反対の言葉達が零れてしまう。

「…嫌。」

困らせたい訳でもなく、当たり前のように、嫌いになったり、好きな人ができた訳でもないけれど。

次の言葉が見つからなくて、長い沈黙が包み込んだ後、

「なんで」
「あのさ」

涙目をしたあいと、僕の言葉が重なった。

「あのさ、幸せのまま、終わりたいんだ。」

きっと、それは僕の、ただの小さな我が儘だ。と、言った後に気付いた。

「…嫌だよ。絶対、ゆうくんといるから。」

「一緒に行こうよ。付いてきてよ。」

答えは、知っていたけど、言葉だけでも、今は欲しかった。

「無理だよ。それくらい、分かってるでしょ?」

教科書に書いてあるくらいの返事に、僕は答え合わせをしたくなかった。

「じゃ、俺が浮気したら?」

「奪いにいくよ?」

自分も必死な形相で、あいに聞いていたけれど、あいも必死なのが伝わる。

「喧嘩して、連絡取れなかったら?」

「会いに行く。」

「あいを嫌いになったら?」

「また、好きになってもらうもん。」

全速力で走った後のように、漏れる息が聞こえるようだった。

「なんで…。」

見えない明日に、歯がゆい毎日に、戻ってこない昨日に、僕は怖かった。

「なんで、そんなにあいは強い…」
「ゆうくんが、好きだから。」

声を遮り、精一杯張り上げた声を聞いた僕は、訳も分からないまま、泣いていた。

シートベルトを外し、あいの小さな胸で、声を出して泣いていた。

「俺は、嫌だよ。あいと会えないだけで、怖いよ。幸せなまま、残していたいよ。」

普段は、ポジティブ思考だけど、あいのことになると、ネガティブになる。

それだけ、自分でも抑えきれないくらいな気持ちに、大きく育ったハートの木。

「今以上に、幸せになろうよ。ある物語では、白馬の王子様が、迎えに来てくれるんだよ?」

笑いながら、泣きながら話すあいが可愛くて、愛しくて、僕は壊れるくらい、少し狭い車の中で抱きしめ、

「ありがとね。」

あいの唇が、腫れるくらい、強引なキスを、

「俺、頑張るからさ。」

ずっと、していたんだ。





静寂に包みこまれていた空に、淡い光が差し込んだ肌寒い夜明け。

情熱の向こう側を、信じてみたかった。

いや。

君となら、いつか見れると思ってるんだ。